暗黒の章 第20章 星の涙

 地球は変わることなく、いつもと同じ淡く、魅力的な青い光に包まれていた。地上では人々の喜怒哀楽が交じり合い、大多数の人々は幸せな日々を送っていた。
 しかし、地球の人々は、一光年に零をいくつ加えようと辿り着けないほど彼方に、地球とよく似た環境を持った星があることを知らなかった。
 そこには人間と似た生き物、この星では「ガリア」とされる生物が存在し、人間と同じように「考える」能力を持っていた。しかし、文明は地球のそれとは大きく違い、科学技術はそれほど発展しておらず、多くの人々は畑を耕すことでその生活を支えていた。
 その星と地球との最も大きな違いは「雲」の存在であった。この星で「ゼール」と呼ばれる雲は、そのどす黒く、厚い容貌で星全体の光を奪っていた。もちろん、太陽は存在する。しかし、どれほど太陽がその光を星に送ろうと、無情にもそれは「ゼール」に阻まれ、地上に到達することは無かった。
 しかし例外はあった。一週間にたったの二回、合計して三十時間だけ「ゼール」は忽然とその姿を消し、人々は存分に光を浴びることができた。人々はその日を「エタール(祝福)」と呼んだ。
 この星には二つの大陸と、一つの海があった。町は三つしかなく、それには理由があった。「ダーラ」と呼ばれる闇の魔物が人々の存在を脅かしているからだ。「ダーラ」のために、人々は広範囲の繁栄は許されなかった。町の周りには強固な「ミカ(壁)」が作られ、町の安全を保っていた。
 町を守るものとして、ミカの他にも二つのものがあった。「セパレル(軍隊)」と「ハンター」である。先程、この星の科学技術は発展していないと言ったが、軍事については事実とは言えなかった。自分達の身を守るため、人々は武器の研究を続けた。それにより、地球でいう銃火器のようなものが作られたのである。「軍隊」の主な武器がそれだった。彼等の役割は「町の守護」である。
 一方「ハンター」と呼ばれる集団は、「軍隊」より人数は激減するものの「メクアス(英雄)」と呼ばれ、人々から人気を集めていた。「ハンター」は一人一人が特異な能力を持ち、「ダーラの抹消」「ダーラの目的の模索」また「ゼールの源の探索」を目的としていた。「ハンター」には銃を使う者もいれば、剣を使う者もいる。自分に最も適した武器を選ぶのである。
 
 人々はこの闇黒に覆われた星を「グラーム」と呼んでいた。


    序章

 人々の悲鳴と喧騒の中、少年は両親に守られるように逃げていた。その燃え上がる町を、少年は自分でも驚くほどの冷静さで眺めていた。
 ふと、黒く、大きなものに視界を遮られ、少年は上を見上げた。赤く、敵意に満ちたその眼光の中に、少年は微かな悲しみを感じ取った。
 少年の父親が叫び声をあげて「それ」と少年の間に立ちはだかり、少年は母親に抱きとめられた。母親の腕の間から、少年は自分の父親の首が飛ぶのを見た。鮮血が宙に舞い、それを見ていた少年の頬に母親の涙があたった。
 少年を強く抱きしめていた母親も、しかし「それ」の手で無力にも引き剥がされた。少年の目の前で、母親の体は風に飛ばされた紙切れのように宙に飛び、燃え盛る民家の一つの屋根を突き破った。
 再び少年は「それ」と目を合わせた。先程と変わらぬ冷静さで、両親の死を悲しむでもなく。「それ」が片腕を振り上げても、少年はただ赤く光った目を見据えていた。
 少年の体に「それ」の腕が振り下ろされたのと同時に、「それ」の上体が地面に落ちた。少年の目に「それ」の背後に立っていた、大剣を手にした男の姿が映った。全身に返り血を浴び、怪しい笑みを浮かべて少年を見下ろしたその男の姿は、次の瞬間には少年の視界から走り去っていた。
 後には、不気味なほどの美しさを放って、鮮血と炎が少年の瞳の中で踊っていた。

    
    一章

(コードネーム、『ナイト』。能力名、『カリド(戦闘)』。)
 ナイトは起きたばかりの体を立ち上がらせると、頭を掻いた。
「ちっ、嫌に昔を夢に見たもんだぜ。」
 ナイトが「ハンター」の一員になったのは、それほど昔のことではなかった。実戦試験において首位で合格したナイトは、ハンターの期待の新人であった。
(コードネーム、『ウィンド』。能力名、『リーバ(波動)』。)
「よう、おはようさん。よく眠れたか、ナイト?」
 ノックもせずに入ってきたウィンドを見ると、ナイトは不機嫌な顔で「まあな」とだけ言った。
 ナイトがハンターになると、同時期にハンターになったウィンドがパートナーとなった。ハンターの「戦闘員」がペアで動くのは規定なのである。
 状況判断試験で首位だったウィンドがナイトと組んだことで、「新人最強タッグ」と呼ばれることになったのは当たり前と言えることだった。事実、二人は任務を失敗したことはなかった。
 二人が住む町は「タストリアス」と呼ばれる首都的な町で、中央政府の本部がその建物を置いたのもこの町だった。中央政府は少数のハンターと、少数の選挙された市民と、大多数の軍人によって形成されたものである。
「おい、聞いたか?ミカの一部に亀裂が発見されたらしいぜ。」
 朝食を食べに入ったレストランの席でウィンドが言ったが、ナイトはそれほど関心が無いようで適当な返事をした。
 朝食を終えた二人は、中央政府の建物に隣接したハンターの本拠地に入った。
(コードネーム、『ドクター』。能力名、『イセト(治癒)』。)
「こら!あなた達。」
 通路を歩いていた二人の背後から聞こえた声は、ウィンドに首をすくめさせた。
「おはよう、ドクター。相変わらずお美しい。」
 そう言って笑顔を見せるウィンドを、ナイトが苦笑して見る。
「あなた達、昨日の健康診断にでなかったでしょう?」
「任務の途中だった。やむを得ない。」
 ナイトが無表情にそう言い、ウィンドが頷いた。
「そうですよ、それに、俺達は健康そのものです。」
 二人に胡散臭そうな視線を向けると、ドクターは溜息をついた。
「まあ、良いわ。今日、後で来なさい。それで許してあげる。」
 そう言って立ち去ったドクターの姿が見えなくなると、ウィンドが笑った。
「よし、行こうぜ。」
 ウィンドがナイトの肩を叩いた。
(コードネーム、『アーティスト』。能力名、『メータク(創造)』。)
「げ、一難去ってまた一難だな。」
 ウィンドがそう言ったのは、通路の壁に寄りかかったアーティストを見たからだった。アーティストはその能力である「メータク(創造)」を使い、ハンター用の武器をまさしく「創造」することが仕事だった。アーティストが頭でイメージしたものは、そのイメージ通りに現実世界に現れるのである。
 ナイトが頭を横に振る。
「あいつはお前が相手にしてくれ。」
 ナイトがウィンドに耳打ちする。ウィンドが軽く頷いたとき、アーティストが話し掛けてきた。
「相変わらずだな、君達、その私服。なぜ僕のように美しく制服を着こなせないのだ?」
 ナイトが嫌悪をありありと表情に出した。ウィンドが冷たい視線を送る。
「うるさいぞ、アーティスト。制服を着たからハンターってわけじゃない。問題は能力だ。お前は人の服装に文句を付けてないで、トイレットペーパーでも創造していろ。」
 そう言うと、二人はさっさとその場を去り、目的の部屋に入っていった。
(コードネーム、『ボス』。能力名、不明。)
「諸君、深刻な問題が起きた。」
 集まった戦闘員の前に立ったボスは、深刻な表情で深刻な話を始めた。
「知っている者もいると思うが、昨日ハンターの一人が裏切ったのだ。」
 騒然となるハンター達の中、ナイトとウィンドだけは静かに顔を見合わせた。
「過去に事例もなく、実に奇妙なことだが、裏切ったそのハンターは仲間を一人殺した後、ダーラと共に去っていった。不思議なことに、ダーラは奴を攻撃しなかった。いや、むしろ、奴に従うようについていった。」
 そこで溜息をつくと、ボスは続けた。
「奴の能力は危険だ。それがダーラと組まれたとあってはなおさらだ。早急に手を打たなければならない。今日も諸君には『狩』にでてもらうが、その際に奴を目撃した場合、本部に連絡を入れ、殺しても構わない。」
 ボスの話が終わると、ハンターの戦闘員達は席を立って、各々部屋から去っていった。

 「狩」とは、町の外にいるダーラを殺すことである。だが、ただ殺すのではなく、観察し、あるいは尾行して、ダーラ達の目的を探り当てるのがハンターの仕事なのである。しかし、大多数のハンターはダーラを殺すことを第一目的とし、狩を楽しんでいた。
 無断で町から出ることは、一般市民には犯罪であった。エタールの時のみ、許可証を持っていれば、町を出ることが許された。他の町へと移動しなくてはならない商人達は、許可証の他に「武器免許」というものが必要で、最低でも三人で行動しなければならなかった。もちろん、他の二人にも武器免許が必要である。
 町の門は一つしかなく、二重に固く扉が閉ざされてあった。門の周りは軍によって厳重な警戒網が張られており、許可なく出入りすることは絶対に許されなかった。
 町はミカに守られ、ミカに沿って数え切れないほどのトリト(櫓)が設置されていた。トリトも軍の指揮下にあって、一つのトリトに最低三名の軍人が常時配置されていた。
 さて、他のハンター達と同様に町の外に出たナイトとウィンドは、そのトリトの一つの近くを歩いていた。
「お〜い、下のハンター達、気をつけろ、敵襲だ。」
 上から声が降ってきた。トリトに居た兵士が二人を見つけて忠告したのである。
「援護を頼む。」
 上に向かってウィンドがそう叫ぶと、自分も武器である拳銃を取り出した。ウィンドの武器であるこの銃は軍で使われている通常の物より大きく、数倍の威力がある。ウィンドが死神の意味を持つ「キリア」と名付けた銃である。
 ナイトは武器を取りだす必要がなかった。なぜなら、ナイトの武器は既に装着されているからだ。両手に爪の付いた肘までくる小手を装備しているのである。
 話は変わるが、ハンターには「覚醒型」と「天性型」の二種類があった。生まれつき能力を持った者を「天性型」、何かがきっかけで能力が目覚めた者を「覚醒型」と呼んでいる。一部の覚醒型のハンターにはある特徴があった。「ヴァル変貌」である。ヴァルはその一部の覚醒型ハンターがダーラと戦うときに起こる。一種の二重人格のようなもので、戦闘時に人格が変わるのである。
 そして、ウィンドもナイトも数少ないヴァルの特徴を持ったハンターであった。そして、興味深いことに、この二人は戦闘時に性格が逆転するのである。ナイトはそれまでの冷静さが失われ、戦闘に熱中する。逆にウィンドは冷静になるのである。
 ダーラが二人に接近してくると、二人の目つきが同時に変わった。
「うああああ!」
 叫び声をあげて、ナイトがダーラの群れに突っ込んでいく。ナイトの能力である「カリド(戦闘)」は、自己の力とスピードを数倍に跳ね上げるというものである。
 そもそも、ハンターは戦闘員が常人の五倍、後方員でも三倍の能力があるとされている。戦闘能力に至っては、戦闘員一人で軍人十人分と言われるほどである。そして、ナイトの能力はそれを更に引き上げるのである。
 一瞬にして一匹のダーラの目の前に行くと、ナイトはそいつの肩を殴打した。肩から腕が吹き飛び、そのダーラが悲鳴をあげる。ナイトはその場で軽く飛び上がると、止めの蹴りを頭部に叩き込んだ。
 ダーラには数多くの種類がある。大きさも形もそれぞれ違い、大きいものは五メートルほどもある。全てのダーラに共通しているのは、黒い肌と、硬い装甲と、生命力の強さであった。
 無謀にもダーラの群れに入っていったナイトは、数匹殺したところで包囲されてしまった。しかし、一匹のダーラの頭部が、ウィンドの銃撃によって吹き飛んだ。その隙間からナイトが包囲網を脱出する。
 今度は目標を変えて、二匹のダーラがウィンドに襲い掛かった。その内一匹に銃弾を叩き込み、もう一匹に向けて手を突き出した。衝撃波がそのダーラを叩き、吹き飛ばした。これがウィンドの能力、「リーバ(波動)」である。
 さて、かくして二十匹ほどもいたダーラの群れは、たった二人のハンターに全滅しかけていた。逃げようとする最後の三匹を追ってナイトが走りかけたが、ウィンドの手がそれを阻止した。
「まて、今日はエタールだろう?もうすぐ太陽が出るはずだ。」
「だからどうした?逃げちまうぞ?」
 ナイトは今にも走り出しそうである。
「後を付けるんだ。エタールの時、ダーラはどこかに消える。尾行に成功すれば、ダーラの巣を見つけることができるかもしれない。」
 ナイトも少し冷静さを取り戻し、頷いた。
(コードネーム、『サーキット』。能力名、『モニス(通信)』。)
「サーキット、聞こえるか。」
 ウィンドが目を瞑ってそう言った。頭の中で声が響く。
「ああ、聞こえるぞウィンド。どうした。」
 サーキットの能力、「モニス(通信)」は外に居るハンターと本部が連絡を取る唯一の手段であった。サーキットは外から話し掛けてくるハンターの声を受信し、会話をすることができるのである。
「俺達はこれからダーラを尾行する。エタールの時に連中がどこに行くのかを突き止められるかもしれない。」
「分かった、ボスに伝えておこう。恐らく、援軍が出されると思う。健闘を祈る。」
 通信が切れると、二人は尾行を開始した。


    二章

(コードネーム、『ホーク』。能力名、『ハーム(狙撃)』)
(コードネーム、『シールド』。能力名、『キアド(守護)』)
 ホークとシールドは、サーキットから連絡を受けてナイトとウィンドの手助けに向かっていた。
「太陽が出てきたぜ。」
 上を見上げたホークがそう言うと、シールドが頷いた。
「ええ、いつ見ても良いですよね、太陽は。」
 ゼールはいつの間にか消え失せ、空は雲一つない青に染まった。これから、約十五時間太陽の光が地上に差し込む。
「サーキットの話だと、この辺だな。」
 二人の前は崖のように切り立っている。下を見下ろしたシールドが、驚きの声をあげた。
「ホークさん!これ、崖じゃなくて穴ですよ!」
「なんだって?」
 ホークも走りよって下を見ると、斜面にはなっているが確かに下へと続いている。
「なるほど、ここがダーラの巣か。」
 二人が降りようとしたとき、穴の奥の暗がりから人が走り出してきた。間違いなくナイトとウィンドである。
「お〜い!ナイトさん、ウィンドさん!」
 シールドがそう叫ぶと二人は上を見上げたが、走るのを止めなかった。
「あいつ等、なにを急いでるんだ?」
 ホークが首をかしげた次の瞬間、二人は理由を察した。過去に見たこともないほど巨大なダーラがナイト達を追いかけていたのである。しかし、そのダーラは太陽の日があたらない場所で止まり、逃げ切ったナイトとウィンドを睨み付けた。
「大丈夫ですか?」
 崖を上ってきた二人に手を貸して引き上げると、シールドが聞いた。
「ああ、まあな。ありゃあ間違いなくダーラの巣だな。」
 ウィンドがそう言うと、ホークが聞いた。
「中は調べてこなかったのか?」
「無茶言うなよ。少し下に下りたところに巨大な空間があってよ、そこに大型のダーラがウジャウジャいるんだぜ?」
 ウィンドはそう言って首を横に振った。ナイトがホークの肩に手を置いた。
「ホーク、あいつに報復してやってくれ。」
 低い声でそう言いながら、ナイトが穴の入り口付近で四人の方を見ている巨大ダーラを指差した。ホークが笑って「OK」と短く言った。
 ホークは地面に転がっていた拳大の大きさの石を拾い上げると、軽く宙に放り投げた。石は重力によって上昇を止めたが、そこで何かに弾かれたように吹き飛んだ。
 凄まじい速さで一直線に飛んでいった石は、巨大ダーラの片目にぶつかった。ダーラは呻き声をあげて中に逃げ帰っていった。
 「ハーム(狙撃)」の能力は、その名の通りターゲットに向けて物体を飛ばすことだった。しかし、ハーム狙撃の能力の本当に驚くべきところは、目標が飛来した物体を避けようと、方向転換することで追撃することができるのである。もちろんそれには制限があり、方向は一回しか転換できない。そして、当然ホークの愛用の武器はライフルであった。
「とりあえず、タストリアスに戻ってボスに報告しようぜ。」
 そのウィンドの意見に全員が賛成したため、四人は町への帰路についた。

「ナイト、ウィンド、良くやった。」
 帰ってきた二人の報告を聞くと、ボスは二人の肩を叩いてそう言った。
「出撃の提案は私が中央政府に届けておく。今日はゆっくりと休養し、エタールを楽しみたまえ。」
 ボスの部屋を出てきた二人を、シールドが待ち構えていた。
「お疲れ様です。明日はもっと忙しくなりそうですね。」
「ああ、シールドもしっかり休んでおけよ。」
 ウィンドがそう言うと、シールドの顔に笑みが浮かんだ。
「はい・・と言いたいところですけど、これからどうですか?ホークさんが一緒に飲みに行こうって。」
 ウィンドは予期していたように飛び上がった後、ナイトの方を見た。ナイトが軽く笑う。
「まあ、たまには良いだろう。」
 
 エタールの十五時間はあっという間に過ぎていき、グラームは再びゼールに覆われた。時間的には夜であるため、町は少しずつ静まって行き、寝息を立て始めたようだった。
 しかし、町の西側では、惨劇がしのび足で近付いてきていた。最初にそれに気づいたのは当然トリトの見張りであった。
 望遠鏡で辺りを見回していた兵士の一人が、突然叫び声をあげた。他の兵士が駆け寄ってくる。
「ダーラの襲撃だ!」
 西のかなり離れた地点に、数え切れないほどのダーラがひしめいているのが見えた。
「セパレルに出動要請!ハンター達も叩き起こせ!」
 そのトリトで一番階級の高い兵士が血相を変えてそう叫んだ。直ちに本部に使者が派遣されたが、その使者がトリトを出た次の瞬間、そのトリトは「爆発」して崩れ去った。
(コードネーム、『ゼロ』。能力名、「ディガスジェ(破壊)」。)
 ゼロはゆっくりと、荘厳な態度で破壊されたトリトに近付いてきた。そのトリトのすぐ横が、ウィンドの話していた亀裂の入ったミカである。
 ゼロがゆっくりと手を動かすと、巨大な爆発が生じてミカの一部、だがかなりの広範囲が崩れ去った。
「行け!」
 ゼロは背中から大剣を引き抜くと、自分で作った新しい「入り口」に切っ先を向け、低く、だがはっきりとそう言った。それに従って、ダーラの大群が町へと雪崩れ込んでいった。
 町に入ったダーラ達は、人々の悲鳴の中破壊と殺戮をほしいままにした。その惨状の中を、ゼロが悠然と歩いていった。
 セパレルの到着はかなり迅速であったと言える。これ以上被害が広がらないように包囲網を作ると、兵士達はダーラに銃の乱射を浴びせた。効果はそれなりにあったが、セパレルの持つ通常の銃では、ダーラ一匹を殺すのにもそれなりの時間がかかった。それ故、一気に殲滅と言うわけにはいかなかったが、セパレルは善戦していた。
 しかし、包囲網の一部はいとも簡単に破られた。兵士達の目の前で起こった爆発は、一瞬にして数十人の兵士に死をもたらした。ゼロがそれまでと同じように包囲網の破れ目を抜けていった。
 ハンター達がその場に到着したのは、セパレルの到着から十分ほど後であった。ナイトとウィンドも駆け付けたが、ナイトは激戦区を背にゆっくりと歩いていく男を見て首をかしげた。
「何やってんだ、ナイト。行くぞ。」
 ウィンドにそう急かされて、ナイトは戦場に飛び込んでいった。
 ウィンドが発した衝撃波が一気に十匹ほどのダーラを吹き飛ばし、ナイトの為に道を作った。ナイトはそこに走りこむと、周辺にいたダーラを蹴り飛ばし、肘打ちを入れ、薙ぎ払い、体に風穴を開け、次々と戦闘不能に陥らせた。
 しかし、ナイトは崩れた壁を見て数秒考えると、後方に飛び退いてウィンドに話し掛けた。
「ウィンド、ボスが言ってた裏切り者を覚えてるか?」
「ああ。」 
 ウィンドは怪訝な顔をしてから頷いた。
「恐らく、奴がここにいる。さっき見かけた。」
 それを聞いて、ウィンドの眼光が鋭く光った。
「どこに向かった?」
 ナイトが指を指した方向を見て、ウィンドの顔に焦りが浮かんだ。
「まずいな。本部だ。」

 ハンターの本部の正面入り口のドアが吹き飛んだ。入り口付近にいたハンターの後方員が目を丸くすると、入ってきたゼロを見て自分の武器である槍を構えた。
「何者だ!」
 そのハンターの質問に、ゼロは笑みを浮かべた。
「お前と同じだ。」
 その返答の意味を解さず、ハンターを一足飛びでゼロに近付くと槍を横に薙いだ。だが、ゼロの手がその槍を無造作に掴んだ。
「残念だが、お前に稽古をつけている暇はない。」
 ゼロがそう言った瞬間、そのハンターの眼前で小規模な、だが凄まじい破壊力を持った爆発が生じた。吹き飛ばされ、背中から壁に叩きつけられたそのハンターは気を失った。
 ゆっくりと、ゼロの右腕が左から右へ動いていく。その動きにそって、爆発が連鎖して起こった。壁が、床が、屋根がその爆発で吹き飛んだ。
 騒ぎを聞きつけて数人のハンターが集まってきた。ゼロがその中の一人を指差す。すると、再び爆発が生じ、そのハンターの体が数個の欠片に分解された。それを見て、他のハンターが青ざめる。
 ゼロがボスの部屋に辿り着くのに、長い時間はかからなかった。その部屋のドアだけは開けて入ると、ゼロは座っているボスに軽く頭を下げた。
「ゼロ、何の用だ。」
 ボスが鋭過ぎる口調で聞いた。
「ダーラの巣を見つけたらしいが、攻め込むのは止めておいた方が良い、と忠告しに来た。」
 ゼロはボスの前に腰掛けると、そう言った。
「寝ぼけたことを。お前は一体なにをしようとしている?ダーラ達に味方して何がある。」
 そのボスの質問に対してゼロは何か言いたげな視線を向けただけで、席を立った。
「私が言いたかったのはそれだけだ。」
 ゼロが立ち去ろうとしたとき、部屋のドアを蹴破るようにアーティストとサーキットが入ってきた。
「ボス。逃げてください。」
 サーキットがそう言うと、ボスは頷いた。
「汚らわしい裏切り者が。同胞達を殺した償いをしてもらう。」
 演技がかったようにそう言うアーティストを呆れた目で見ながら、サーキットが散弾銃を構えた。アーティストも細身の長剣を構える。
 ゼロは初めて笑みを浮かべると、切りかかってきたアーティストの剣を自分の剣で押さえた。だが、次の瞬間、アーティストの左手に拳銃が「出現」した。目を見開いて体を開いたゼロを弾丸がかすめて飛んでいく。
 ゼロは体を開いた勢いでアーティストに回し蹴りを入れる。アーティストが後方に倒れこむと、サーキットの散弾銃が火を噴いた。ゼロは垂直に飛び上がってそれを避ける。後方の壁に無数の穴が開いた。
「上だ!」
 着地したゼロの頭に響いた声がそう言い、ゼロは咄嗟に上を見上げた。だが、上には何もない。と、ゼロの腹部に衝撃が走った。サーキットの膝がめり込んだのである。後方に数回転がりはしたものの、ゼロは何事もなかったように飛び起きた。
「後方員にしては、中々やるじゃないか。」
 ゼロはそう言うと、アーティストの方を睨んだ。爆発が生じる。アーティストは殺気を感じて飛び退いていたが、爆風に煽られて地面に倒れこんだ。
「な・・なんだと。」
 アーティストは驚きの表情でそう言うと、次の攻撃が来る前にと銃を構えた。が、ゼロの方が迅速だった。再び爆発が生じ、銃を構えたアーティストの左腕が吹き飛んだ。
 アーティストの口から苦痛の悲鳴が響いたが、長くは続かなかった。走りこんだゼロが、大剣でアーティストの首を切り落としたのである。
「アーティスト!」
 そう叫ぶと、サーキットは散弾銃の引き金を引こうとした。だが、発砲する前に爆発が起こり、散弾銃が粉々になり、サーキットは後方に吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。
 一瞬にしてサーキットの前に走りこむと、ゼロは右手を左下から右上に振り切った。大量の火が発生し、サーキットの体を包んだ。
 サーキットの叫び声を背に受けながら、ゼロはハンター本部から歩き去った。


    三章

 ゼロとほぼ入れ違いに、ナイトとウィンドが本部に到着した。破壊された入り口を見て、ウィンドが眉をしかめる。
「遅かったか?」
 中に一歩入ったウィンドの顔が青ざめていく。
「どうした?」
 そう聞きながらナイトも中に入ったが、答えを待つまでもなく理由を悟った。無数の死体、いや、元は人間だった体の欠片が、床に転がっていたのである。
「おい、こいつは息があるぞ。」
 壁に寄り掛かるような形で倒れていたハンターの前で、ウィンドがナイトを呼んだ。体を揺すると、そのハンターは目を薄っすらと開けた。
「なにがあった?」
 ナイトがそう聞くと、そのハンターは意外とはっきりした口調で答えた。
「裏切った男だ。奴が突然現れた。」
 駆け付けた生き残りのハンターにそのハンターを任せると、二人はボスの部屋に向かった。連なる死体がそちらに向かっていたからだった。
「ドクター!」
 部屋のドアは開けられていて、ドクターの姿が見えた。二人は部屋に入っていく。
「ドクター・・それは?」
 屈み込んだドクターの前に横たわっている焼け焦げた死体を見て、息を呑みながらウィンドが聞いた。
「サーキットよ。」
 溜息混じりにドクターが答える。ウィンドが歯切りして拳を硬く握り締めた。
「こっちはアーティストだ。」
 部屋にあったもう一つの死体を見て、ナイトが言った。その声にも、隠し切れない怒りがこぼれ出していた。
 二人は頭を抱えて座っているボスの前に立った。ウィンドが口を開く。
「ボス。奴の目的は?」
 ボスは顔を上げると、二人の顔をしばらく眺めてから答えた。
「ダーラの巣を攻撃するなと告げに来た。コードネームはゼロ。裏切ったが、過去最強のハンターであったことは間違いない。」
 二人は顔を見合わせる。落ち着きを取り戻したボスは、立ち上がるといった。
「今すぐ、ハンター達を集めてくれ。」

 ダーラの襲撃は数時間続いたが、情勢が不利になるとバラバラと逃げていった。ハンター本部の後方員は半数以上を失ったが、戦闘員の方は三人の死者が出ただけであった。
 ドクターが負傷した戦闘員の傷を治すと、ハンター達は会議室に集められた。
(コードネーム、『ヴィジョン』。能力名、『リーグス(分析)』。)
「反逆者、ゼロの能力を分析してみた。」
 ヴィジョンの能力は、「見る」ことによる分析である。ゼロが本部に来たとき、それを陰で観察していたのは、臆病だったのか、「分析」の為なのかは定かではなかった。
「基本的に、ゼロには二つの攻撃パターンがある。爆破と、放火がその二つだ。爆破の方は攻撃範囲が広い。奴の視界に入っていれば、どこにでも爆発を生じさせることができる。どこにでも、と言ったが、空気中だけだ。固体や液体を内部から直接爆発させることはできない。火の方は、手の届く範囲だけなので、接近戦のときに気をつければ良い。」
 そこまで言うと、ヴィジョンは壁を見た。突然、その壁に映像が映し出される。ヴィジョンは自分の頭の中のイメージや記憶を、映像として映し出すことができるのである。
「爆破の対処法だが。これを見て欲しい。」
 映し出された映像の中で爆発が生じる。
「今、爆発が起こる直前に煌きが見えただろうか?空気中にピカッと火花のようなものが発生しただろう?」
 そういうと、ヴィジョンはもう一度映像を写した。確かに、爆発が起こる前に、一秒間ほど火花のようなものが散っているのが見える。
「自分の周りでこれが発生したら、即座にその場を離れることだ。だが、この対処法も奴の近くにいる時じゃないと使えない。と言うのも、自分が起こした爆発とはいえ、巻き込まれれば奴もダメージを受ける。つまり、自分の近くではそれほど大きな爆発が起こせないんだ。よって、避けることも不可能じゃない。だがしかし、遠くにいて、大規模な爆発を起こされては避けるだけの時間がない。そのことを頭に置いておいてくれ。」

「ヴィジョンの奴、簡単に言いやがって。なんなら自分がやってみろってんだ。」
 ウィンドが毒づくと、シールドがなだめた。
「まあまあ、ヴィジョンさんが居なかったら、対処法も分からなかったんですから。」
(コードネーム、『ヒート』。能力名、「フォージュ(発火)」。)
「それより、気に入らないのは、彼が私と同じ能力を持ってるところね。」
 そう言いながらナイト達の前に現れたのはヒートである。
「同じったって、ヒートのは『火』と言うより『熱』だろ?」
 ウィンドがそう言うと、ヒートは笑って「まあね」と答えた。シールドが辺りを見回す。
「あれ?ヒートさん、ボーイフレンドは?」
(コードネーム、『ウォーカー』。能力名、『サリ(移動)』。)
「ああ、ウォーカーなら、今に・・」
 ヒートがそこまで言いかけたとき、ウォーカーがシールドの後ろに「現れた」。気づいていないシールドの肩に掴みかかると、ウォーカーは「わっ!」と叫んだ。
 シールドが飛び上がりながら飛び退き、球状のバリアを張りながら振り返って身構えた。「器用なやつだ」とナイトが口に出さずに考えて苦笑した。
「おいおい、そこまでしなくても。悪い悪い。」
 ウォーカーがそう言いながら両手を振って見せた。シールドが顔を赤くしながらバリアを解いた。
「ウォーカーさん!脅かさないでください!」
「あら、全員そろっているわね。ちょうどいいわ。」
 歩み寄ってきたドクターの発言の意味を、誰も理解できなかった。
「どういう意味だ?」
 ナイトが聞くと、ドクターが微笑んだ。
「今ここにいる六人が、明日ダーラの巣を襲撃するチームよ。」
 六人は顔を見合った。
「つまり、俺達だけってことっすか?」
 ウィンドが六人を代表して聞くと、ドクターが頷いた。
「ええ。精鋭を集めて、少人数で実行することにしたらしいわ。戦闘員が大人数出払うと、町の守備が手薄になるしね。それがボスからの伝言よ。」
「精鋭扱いは光栄だが、相手はハンターをあれだけ殺した相手だぜ?いくら後方員とはいえ。」
 ホークがそう言うと、ヒートがホークの背中を叩いた。
「何弱気なこと言ってるのよ。私達だけで十分じゃない。ねえ?ウォーカー。」
「おうよ。余裕だぜ。」
 ウォーカーはガッツポーズを作ってみせる。
「実行はいつだ?」
 ナイトが聞くと、ドクターは「明日よ」とだけ言って去っていった。

 その日の夕方、ナイトは町の西部、つまりダーラの襲撃に遭って廃墟と化した辺りにやってきた。崩れた家々は光を遮られた暗闇の中でもくっきりとナイトの瞳に写った。
 しばらく辺りを歩いていると、瓦礫に屈み込んだ子供の姿が見えた。ナイトはその少年の方に歩いていくと声をかけた。
「こんなところで何をしている?」
 少年は少し顔を上げ、その吸い込まれるような蒼い瞳でナイトを見た。だが、視線はすぐに瓦礫に戻る。
「父さんと・・母さんが・・この中にいるんだ。」
 消え入るような少年の声は、しかしはっきりとナイトの耳に届いた。ナイトの脳裏に、ある光景が浮かび上がる。
 父親の死体の前に立ち尽くした幼いころのナイトは、その顔に涙こそなかったが、込み上げる怒りと憎悪に支配されていった。ナイトの脳裏で記憶が少しずつ巻き戻され、ダーラの血で染まった大剣を肩に担いだ男の笑みが写った。
 そこでナイトは目をカッと見開いた。自分の記憶をたどっていき、先程見かけた戦場に背を向けて歩いていった男の姿を思い出す。年こそ取っているが、その姿は幼いナイトを助けたあの男のものと重なった。
「やろう・・」
 ナイトは複雑な気持ちになった。幼かった自分を助けた男が、今日は自分の仲間を殺したのだ。ナイトの中で込み上がった怒りは、ゼロと、ゼロに憧れてハンターになった自分との両方に向けられていた。
 居たたまれなくなってその場を去ろうとしたナイトの背中に、静かな、だが心に染み透るような声がかかった。
「落ち着いて・・」
 振り返ったが、そこには少年の姿しかない。少年がナイトに微笑みかけた。
「今の声・・あの子供か・・?」
 数秒硬直したように考えたが、ナイトは頭を振るとその場を立ち去った。先程より気分がはるかに良くなったことに、ナイトは気が付かなかった。


    四章

「準備は良いか?」
 六人が集合すると、ウィンドがそう聞いた。全員が頷く中、ナイトだけは上を見上げている。
「どうかしたんですか?」
 シールドが聞くと、ナイトは上を見上げたまま言った。
「ゼールが・・いや、気のせいだろう、なんでもない。」
 そうは言ったが、ナイトの目にはゼールが普段より暗く、陰気な雰囲気を放っているように見えた。
「よっしゃあ!じゃあ、行こうぜ。」
 ウォーカーが大声でそう言った。
「サーキットがいないから、経過報告ができないのが痛いな。」
 歩きながら、ホークがそう呟いた。
 町から出てしばらく行った辺りで一行は数匹のダーラに襲われたが、不幸にもそのダーラはヒートの火で焼かれ、ウィンドの衝撃波で吹き飛ばされ、ホークの乱射を浴びて全滅してしまった。
「いやあ、さすがにこれだけハンターが集まると、ダーラさん達がかわいそうだな。」
 ウォーカーがそう言って笑う。
「それよりウォーカー。なんでお前の『サリ(移動)』で俺達をあそこまで連れて行かないんだ?」
 ウィンドがそう聞くと、全員が「そういえば」と言うようにウォーカーの方を見た。
「全員でのんびり行った方が楽しいじゃないか!」
 そう言って再び笑うウォーカーに、全員の冷たい視線があたった。

 ダーラの巣の前に、六人全員が出現した。「サリ(移動)」の能力はいわゆる瞬間移動である。もちろん、一回に移動できる距離に限りはあるが、数回の移動を繰り返せば同じことである。
「まったく、楽しみってもんを知らん連中だな。」
 と、ウォーカーは一人ですねている。
「良いか、ここからは気を引き締めていけ。何がでるか分からんぜ。」
 経験者であるウィンドがそう確認すると、全員が中に入っていった。しばらく進んでいくと、ナイトとウィンドが言ったように、巨大な空間が広がっていた。
「この暗さじゃあ、先が全然見えないわ。」
 そう言うと、ヒートは数十個の火の玉を作り出し、辺りに散りばめた。突然、その光に驚いたように巨大ダーラ三匹が六人の前に立ちはだかった。
「三匹か。数がちょうど良いな。二人一匹だ。」
 そう言いながら、ナイトとウィンドが早速一匹に攻撃を仕掛けた。
 ナイトが跳躍すると同時に、ウィンドがキリトの引き金を引いた。その高さ六メートルほどもあるダーラの、四本の内一本の腕に弾丸があたり、装甲を突き破った。しかし、巨体はそれ自体が強力な武器で、それほどのダメージを受けていないようだった。
 跳躍したナイトはダーラを飛び越えて後ろに着地すると、再び飛び上がってダーラの背中に拳を叩き込んだ。その部分の皮膚と肉が弾け飛び、ダーラが悲鳴をあげる。振り返りざま、二つの手がナイトを襲った。
 だが、一つはウィンドの衝撃波に弾かれ、もう一方は避けられた上に指を一本へし折られた。
「うおおおお!」
 叫び声をあげて、着地したナイトがダーラの足を蹴りつけた。同じ瞬間、衝撃波がダーラの体を叩き、バランスを崩したダーラは地面に倒れこんだ。
 倒れたダーラにウィンドの衝撃波がマシンガンの様に降り注ぐ。地面に倒れたまま奇怪なダンスを踊ると、ダーラはグッタリとなり、その首にナイトが止めの一撃を叩き込んだ。
 他の二匹のダーラも、それ相応の方法で倒されていた。
「軽いぜ!」
 そう言いながら、ウォーカーがガッツポーズを取っている。
「エタールじゃないからな。ダーラはほとんど出払っているんだろう。」
 ナイトがそう言ったとき、ダーラの死骸から剣を引き抜いたシールドが声をあげた。
「あそこから奥に行けるみたいですよ。」
 ドーム状になった空間の壁の一つに、ぽっかりと穴が開いている。一行はそこへ入っていき、下へ下へと進んでいった。
 かなりの数のダーラが行く手を阻んだが、どれも成功しなかった。そして、更に一匹のダーラが横合いから飛び出し、シールドに襲い掛かった。
 腕から出現した光の盾でその攻撃を押さえると、シールドは剣を一文字に払った。誰もが勝負はついたと思ったが、そのダーラが上体を倒してシールドの剣を避けたことで考えが変わった。
 首をかしげて、シールドが今度は剣を頭上から振り下ろした。今度は腕から突出した角のような部分によって攻撃が押さえられる。と、そのダーラの右腕が動き、シールドの頭を狙った。シールドがそれをかわしたとき、後ろから伸びた鞭がダーラの首に巻きついた。
 高温に熱しられた鞭の下で、ダーラの皮膚が焼ける音がする。そのダーラを突然後ろに引っ張ると、ヒートは左手に溜めた火を叩きつけた。ダーラは吹き飛んで壁に衝突し、火ダルマになった。
「今のダーラ、普通のより強かったんじゃないですか?」
 シールドが自分でも信じられていないことを聞いた。
「お前が手を抜いたんじゃないのか?」
 そう言ったウィンドも、疑惑を隠せなかった。
「考えるより、今は先に進むぞ。」
 ホークがそう言うと、シールドとウィンドは頷いて歩き始めた。
 そこから数十分も進むと、再び開いた空間があった。最初のものほど大きくはないが、それでもかなりの広さである。左端の方が切り抜かれたように崖になっている。ヒートが何もしていないにもかかわらず、辺りは淡い光で薄っすらと明るかった。
 奥の暗がりから人影が進み出てきた。全員が身構えた後一歩後退したのは、その人物がゼロだと分かったからであった。
「私の忠告を聞かず出てきたのか。愚かな。」
 ゼロはいつもの悠然とした態度で一行を一人ずつ見ていくと、溜息をついた。
「お前は一体なにをしようとしている?」
 そのナイトの質問は、実はボスがしたものと同じだったが、ナイトはそんなことは知らなかった。ゼロはゆっくりと口を開く。
「星を・・グラームを救おうとしているのだ。」
 予想外の答えに、全員が困惑の色を隠せなかった。
「なんだと?」
 一人、冷静にそれを聞いていたナイトが聞いた。
「・・ここまで来たのなら良いだろう。ついて来い。」
 そういうと、ゼロは暗がりの中に消えていった。他の五人が動かずにいられる中、ナイトだけが足を踏み出した。それを見て、他の五人も後に続く。
 しばらく進むと小さな空間に入り、その空間は半分近くが切り立った崖になって下に続いていた。だが、一行が目を奪われたのは、そこに置いてあったベッドだった。薄暗い洞窟の中にある清楚なベッド。これほど異様な印象を受けるものも少なかった。
 ベッドの傍らに立ったゼロが、そこに眠っている誰かを揺すり起こした。六人の視線が、ベッドの上で体を起こした小さな少女に釘付けになった。
(コードネーム、『イノセント』。能力名、『シャルク(夢見)』。)
「こんにちは、皆さん。」
 そう挨拶して笑いかける少女、イノセントに、全員が声を失った。このような場所で、あのような少女が何をしているのか。ようやく、搾り出すようにナイトが聞いた。
「君は、誰で、ここで何をしているんだ?」
 少女はベッドから立ち上がると、崖の方に悲しげな視線を向けた。
「星を・・慰めているんです。」
 ここで、また全員が声を失う。理解しがたい発言をする少女を、全員が理解しがたいといった表情で見つめる。それを気に止めずに、イノセントは崖の縁まで歩いていった。
「見てください。」
 何かに引っ張られるように、全員が縁まで行って下を見た。黒い、波打つように動く何かがそこには広がっていた。悲痛に満ちた空気がそこから立ち込めている。
「なんなんだ。これは・・?」
 ウィンドが小さく、誰に聞くでもなく呟いた。
「『コルマ・メル・サータ(星の涙)』です。グラームは・・涙を流し続けているのです。」
 全員が息を飲み込んだ。突然ホークが笑い声を上げた。
「星の涙だって?悪いが俺達はお子様の作り話に付き合ってる暇はないんだ。」
 そう言ったホークを、キッとイノセントが睨んだ。
「作り話じゃありません。グラームが泣いているのは、あなた達ガリアのせいなんです。」
「・・どういうこと?」
 ヒートがそう聞くと、イノセントは下を見た。
「目を閉じてください。」
 しばらくすると、イノセントがようやくそう言った。理由は分からないが、誰一人この少女に逆らう気にはなれなかった。全員が、ゆっくりと目を閉じる。
 突然、無数のイメージが流れ込んできた。よどんだ空気と汚された水がグラームを覆っている。数え切れないほどのガリアが、機械的な建物の合間を行き来している。戦争や巨大な爆発のイメージが次々と流れていき、最後にグラームが崩れていくイメージが見えた。そこで全員が目を見開く。
「なんだったんだ、今のは!」
 ウォーカーが叫ぶ。イノセントはベッドまで戻って座ると、答えた。
「ガリアがこのまま繁栄していけば、今以上にこの星を傷つけます。今のイメージは、未来です。」
「嘘よ!あのイメージはあなたが作ったんでしょう。」
 ヒートがそう言うと、今まで黙っていたゼロが否定した。
「嘘ではない。私も当初は疑ったが、イノセントの『シャルク(夢見)』は完璧な予知能力だ。」
 全員が何も言えずにいると、ナイトが口を開いた。
「つまり、だからガリアは滅びなければいけないと、そう言いたいのか?」
 ゼロが頷く。
「その通りだ。」
 ナイトの脳裏に、両親の死体、悲しみに打ちひしがれた人々、泣き叫んで逃げ惑う人々、また悲嘆で屈み込んだ少年のイメージが、走馬灯のように流れていった。
「ダーラ達は『星の涙』から作り出され、グラームを救おうとしているのです。ゼールもまた、『星の涙』を源としています。」
 イノセントの言葉は、半分もナイトに届いていなかった。イメージが次々と現れては、消えていく。沈黙を破って、ついにナイトが声を出した。
「ふざけるなよ。・・お前等は・・自分の死を目前にして悲しみと恐怖に歪んだ人々の顔を見たことがあるのか?お前等は、家族や友人を亡くした人々の泣き腫れた目を見たことがあるか!」
 ナイトは叫ぶと同時に壁の一部を叩き壊すと、大きく息を吐き出した。
「例え数万年後の未来を救うためでも、俺はお前等に賛成できないな。」
 ナイトに続いて、今まで黙っていたシールドが口を開いた。
「滅ぼさなくても、説得して、共存すれば良いじゃないですか。道は他にもあるはずです。」
「無駄です。ガリアは貪欲な生き物です。説得し、納得しても、すぐに忘れてしまうでしょう。結局は同じことなんです。」
 イノセントが否定したが、ウィンドが更にそれを否定した。
「だが、ナイトの言う通りだな。だからといって生物の命を奪って良いはずがない。蟻だって殺されそうになれば噛み付いてくる。俺達も抵抗させてもらうぜ。」
「第一、そんな先の未来、今を生きている俺達には関係ない。楽しく生きなければ損だ。」
 そう言うと、ウォーカーは豪快に笑った。ヒートが頷く。
「それに、私達が今グラームを傷つけてるのだって、ダーラに対抗するためにやむを得ずじゃない。まだ何もしてないのに殺されるなんて、気に入らないわ。」
 ゼロの表情が変わっていった。痛恨の一撃を、ホークが投げつける。
「そんなにガリアを滅ぼしたかったら、手始めにあんたらが死んでみたらどうだ?」
 ナイトが唇の片端を吊り上げた。
「ということで、俺達は抵抗させてもらう。俺達の抵抗は手ごわいぜ?」


    五章

「手始めに、その『星の涙』とやらを破壊しちまおうぜ。」
 ウィンドがそう言って崖の縁に歩み寄ろうとしたが、ゼロが進路をふさいだ。一直線に伸びた大剣がウィンドの歩みを止める。
「愚か者どもめ。自ら死を選ぶとはな。」
 ウィンドが一歩後退したとき、崖から二匹のダーラが上がってきた。それを見て、ゼロが薄く笑う。
「ようやく完成したか。」
 その二匹の人間型ダーラは、一見普通のダーラと何も変わらなかった。
「『星の涙』が数日かけて作り出したダーラだ。『デパストル(殺戮者)』と呼んでもらおう。」
 それを聞いて、ウィンドが頷く。
「なるほど。つまりさっきのダーラは、あいつ等の試作品ってわけか。」
 ウィンドが言っているのは、先程シールドを驚かせたダーラのことである。
「あれは俺が相手する。他は全員でゼロを何とかするんだ。」
 そう言うと、ナイトは「殺戮者」の方へ一歩踏み出した。ゼロが嘲笑する。
「一人で相手をする気か?愚かな。」
「俺一人で十分だ。」
 ナイトはそう言うと、殺戮者に向かって突進した。右手の殺戮者に繰り出された蹴りはいとも簡単にかわされ、左右から同時に殺戮者の腕が伸びてきた。ナイトは軽く跳躍してそれを避ける
「ここで我々が戦ってはイノセントが巻き添えになる。さっきの広間に移るぞ。」
 ナイトと殺戮者の戦闘を横目で見ていたゼロはそう提案すると、返事も待たずに歩き出した。先程の空間に戻ると、ゼロは剣を引き抜いて構えた。五人もそれぞれの武器を持って構える。
 真っ先に動いたのはウィンドである。ウィンドが右手を突き出すと、ゼロは衝撃波に叩かれて吹き飛んだ。立ち上がって体制を整えようとするゼロの背後にウォーカーが出現する。殺気を感じたゼロは、横に飛び退いてウォーカーの斧を避けた。
 ゼロが飛び退くとの、ホークが三つの石を放つのと同時だった。石は一直線にゼロに向かって飛んだが、空中で起きた爆発に吹き飛ばされた。しかし、煙を切り裂いてヒートの鞭がゼロに襲い掛かった。ゼロが剣でそれを弾く。
 間をおかず、横合いからシールドが切りかかった。剣と剣が火花を散らす。矢次の攻撃に防戦一方になったゼロは、しかし余裕を無くしてはいなかった。稽古をつけるようにシールドと剣を交えているゼロを見て、ウォーカーが舌を巻きつつも応戦に入った。
 しかし、ゼロは突然後ろに飛び退いて間合いを外すと、右手を前に出した。眼前で火花が散ったのを見て、シールドが咄嗟に反応する。爆発が巻き起こった。
「シールド!ウォーカー!」
 ウィンドは叫ぶと同時に、キリトの引き金を引いた。だが、体を開いてゼロが弾丸を避けたのを見て、目を見開く。
 爆発による煙が次第に薄くなると、シールドが作り出した半円状のバリアに守られたシールドとウォーカーの姿が見えた。
「ほう。」
 それを見たゼロが感嘆の声を上げる。
 ヒートが突然手を上に向けた。その行動を目ざとく見つけると、ゼロはその場から飛び退いた。一瞬の間を置いて、ゼロが立っていた辺りの地面から炎が上がった。ゼロがまだ宙にいる間に、ホークのライフルの弾が襲い掛かったが、ゼロは事も無げに剣で銃弾を払い除ける。
「化け物かよ、あいつは?」
 それを見たホークが信じられないといった表情で呟いた。一旦全員が集まった。
「このままやってたんじゃきりがないな。」
 ウォーカーがそう言うと、ウィンドが頷いた。
「そこでだ、ホークと俺は後方から援護だけに集中する。接近戦はシールド、ウォーカー、ヒートが担当してくれ。シールドも前に出てもらうが、バリアによるサポートを怠るな。前線は火炎に気をつけろ。」
「俺達は爆破に気をつけないとな。」
 ホークが言を継いだ。
 全員が頷いたとき、五人の中心で火花が見えた。全員が別々の方向に飛び退いた瞬間、そこで爆発が起こる。
「作戦会議は終わったかね?」
 そう言って笑うゼロに、シールド、ヒート、ウォーカーの三人が襲い掛かった。

 一方、ナイトは殺戮者相手に苦戦していた。通常のダーラとは「桁が違う」どころの違いではない。一匹がハンターの戦闘員一人に匹敵する実力を持っているのである。ナイトにしてみれば、ハンター達のように特別な能力を持っていないのがせめてもの救いだった。
 同様に、自分の物理的な力を引き上げることを能力とするナイトも、遠距離攻撃がないため、接近戦の殴り合いとなっていた。
 たち性質が悪いのは、殺戮者二匹の息が合っていることだった。連携攻撃を仕掛けてくる相手に、ナイトは疲れを感じると同時に飽き飽きしていた。
 一匹の右腕がナイトの首を狙って襲い掛かる。それを左腕で防御し、半回転するとそいつの腹部に蹴りを叩き込んだ。だが、隙が出たナイトの腹にもう一匹の手が食い込み、後方に吹き飛ばされる。
 反転して着地したナイトに、二匹が同時に攻撃を仕掛けてくる。ふと閃いて、ナイトは左にそれを避けると、左手の殺戮者の足を払い、そのまま隅に逃げ込んだ。一匹がナイトを追って攻撃を仕掛けてくるが、ナイトが隅にいるためもう一匹は手出しができない。
 それを見たナイトの顔に笑みが浮かんだ。自分に向かって伸びてきた腕を体を開いて避けると、その腕を左手で掴んだ。動揺する殺戮者に、右手と足で連打を食らわす。一撃一撃が後方に吹き飛ばされるほどの威力だが、左腕が捕まれているために殺戮者はその場に止まるしかなかった。
 一拍置くと、ナイトは渾身の力を込めてその殺戮者に蹴りを入れた。後方に吹き飛べないはずの殺戮者が吹き飛んだのは、ナイトに捕まれていた腕が引きちぎれたからである。
 待ち構えていたもう一匹の殺戮者の攻撃を避けつつ飛び越えると、地面でのた打ち回りながら咆哮を上げている腕を失った殺戮者に、着地と同時に右手で渾身の一撃を放った。ナイトの拳はとうとうその殺戮者の体を突き抜け、下の地面に穴をあけた。
「悪いが、一匹じゃ俺には勝てないな。」
 ナイトはその殺戮者が動かなくなったのを見ると、もう一匹の方を向いて言った。

 無数の爆発が一度に起こった。ホークとウィンドが必死にそれを避ける。ゼロの手から発せられた火炎がウォーカーをかすめ、同時にゼロの剣がヒートをかすめた。
 ウィンドの作戦は成功しているように見えた。いや、事実ある程度成功していた。ハンター達のチームワークは中々のもので、ゼロと互角に戦っているようだった。しかし、ゼロの表情から余裕が失われないことが、五人を苛立たせた。
 突然、ゼロの表情が変わった。足が動いたと思う間もなく、ヒートが蹴り飛ばされる。倒れこむと同時に、ヒートの前で爆発が起こる。シールドのバリアは間に合ったが、そちらに気を取られたシールドの左肩をゼロの剣が切り裂いた。
 次の瞬間に襲い掛かってきたウィンドとホークによる合計四発の弾丸は、火炎によって焼き払われる。ゼロの左手が一文字に動き、連鎖して起こった爆発に煽られホークとウィンドが後方の壁に叩きつけられてしまった。
 ゼロの目標がウォーカーに向く。切っ先を変えると、高速の攻撃を繰り出す。二連激を斧で押さえたとき、火炎がウォーカーを襲った。「避けきれない」と判断したウォーカーが「移動」する。ゼロの後方に回り、斧を振りかぶったが、この時ウォーカーは攻撃に転じず、一旦離れるべきだった。
 ウォーカーの行動を予想していたゼロは、振り向かずに後方に肘打ちを繰り出した。肘が腹部にめり込み、ウォーカーが一瞬息を詰める。即座に振り向くと同時に、ゼロはその回転を利用してウォーカーに切りかかった。
 辛うじてウォーカーが「移動」する。だが、ウォーカーの姿が消えると同時に、ゼロの左手が・・誰も・・・居ない・方・に向かって伸びた。そこで火花が散った瞬間、ウォーカーが「その場所」に姿を現した。直撃こそしなかったものの、小規模だが強力な爆発はウォーカーの右腕をえぐった。悲鳴と斧が地面に落ちる音が重なる。ここまで、一秒ほどしかかかっていない。
 ウォーカーがゼロの方を睨んだときには、いや、睨む前に、ゼロは既にウォーカーの目前にいた。ゼロの剣がウォーカーの体を貫いた。静かに、まるでスローモーションのようにウォーカーの体が地面に崩れる。
 一瞬の、だが永遠にも等しい空白が流れた。
「ウォーカー!」
 空白の後、四人がほぼ同時にそれぞれの声で叫んだ。
 ゼロの体が、ウィンドの衝撃波に吹き飛ばされて数十メートル先の壁に衝突した。真っ先にヒートがウォーカーに駆け寄り、両膝を突いて倒れているウォーカーの上体を抱き上げた。
「ごめんなさい、ウォーカーさん。僕の責任です。僕がバリアを張っていれば・・ごめんなさい・・」
 次に駆け付けたシールドが、左肩を押さえ、泣きながらすがり付くようにウォーカーに言った。朦朧とする意識の中、ウォーカーはシールドに微笑んで見せた。
 ウォーカーの左手が泣き濡れたヒートの頬を撫でる。ヒートに微笑みかけた後、ウォーカーの左手がヒートの頬を滑るように地面に落ちた。
 数秒の静寂の後、ヒート以外全員の視線が立ち上がったゼロを睨み付けた。
 ホークがゆっくりとゼロの方を指差すと、地面に転がっていた大小十数個の石が弾かれたように飛び、凄まじい勢いでゼロに襲い掛かった。ゼロは垂直に飛び上がってそれを避けたが、それを追って石の群れが方向を急転換した。
 それを見たゼロが目を見張り、両腕を顔の前で交差させた。体の至るところに打撃を受け、ゼロが空中で体勢を崩す。しかし、ゼロの体が地面に落ちる前に、ウィンドの衝撃波がゼロを薙ぎ払った。
 再び壁に叩きつけられたゼロに、追う様にして衝撃波の連激が襲い掛かった。地面に足が付かないまま、衝撃波がゼロの体を叩き、後方の壁には亀裂が走った。
 ようやく乱打から開放されて地面に両手を付いて着地したゼロに、今度はシールドが襲い掛かった。シールドの猛攻一撃一撃に、爆発せんばかりの怒りが込められている。
「殺してやる・・」
 そのやり取りを見ずに、ぐったりとしたウォーカーを見ていたヒートが不意に呟いた。ゆっくり立ち上がると、ヒートはシールドの攻撃に防戦しているゼロの方を見た。
「殺してやる・・殺してやる、殺してやる!」
 そう叫ぶと同時に、ヒートはゼロに向かって突進した。
 それを見たシールドが、狙われている本人であるゼロよりも驚いてその場を飛び退いた。突進してくるヒートの両手から、大量の火が放たれた。それを横に避けたゼロがヒートの方を見たとき、ヒートの姿はそこから消えていた。
 突然、ゼロの右腕に鞭がからみつくと、上から降ってきたヒートがゼロの後ろに着地した。着地と同時に、ゼロの左腕を掴む。
「死ねぇ!」
 叫ぶと同時に、ヒートの体から大量の熱が発せられ、渦巻くように火柱が上がった。巨大な火柱が二人の姿を呑み込んだ。
「ヒート!馬鹿やろう!」
 それを見たウィンドが叫びながら火柱に突っ込もうとする。それをホークが押さえつける。
「なんなんですか?あれ。」
 シールドが聞くと、ウィンドは顔を横にそむけながら、小さな声で答えた。
「自爆技だ。」


    六章

 ナイトがその場に駆け付けたとき、火柱は小さくなって消えようとしていた。ナイトは嫌な予感を覚えた。倒れているウォーカーを見て歯切りしながら、ナイトはウィンド達の方に歩いていった。
「ウィンド。あれは、まさか。」
 ナイトが消える寸前の火柱を指差して聞くと、ウィンドは歯を食いしばって頷いた。傍らでシールドが悔し涙を流している。
 突然、消えかけていた火柱に異変が起きた。火が何かに弾かれたように四散し、一瞬で消え去ったのである。
 全員が戦慄を覚えた。そこにヒートの姿はなかったが、当然灰と化しているはずのゼロが屈み込んでいたのである。立ち上がったゼロは、ぼろぼろになった服と、所々の火傷だけの被害しか受けなかったのである。
「そんな馬鹿な・・」
 愕然とする四人を無視して、ゼロがナイトに話し掛けた。
「殺戮者を倒したのか。中々やるではないか。」
 今度はそれを無視すると、ナイトが猛然とゼロに襲い掛かった。ゼロがそのスピードに目を見張った瞬間、ナイトの足がゼロを蹴り飛ばした。
 吹き飛んだゼロを追ってナイトが更に突進する。だが、ナイトが攻撃する前に、ゼロの剣が煌いた。ナイトが小手でそれを払うと、双方の攻撃の応酬が始まった。そこにシールドが加わる。
 しかし、ゼロは最強という称号にふさわしい実力者だった。火炎を放ち二人の注意をそらすと、飛び上がってナイトの頭部に横蹴りを入れる。次に、ナイトが倒れるより早く着地し、シールドに足払いをかけた。
 更に後方の二人が攻撃する前に両手を振り切った。かなり小規模な、人の頭ほどの爆発が、だが数十個発生する。ホークとウィンドの周りで無数の火花が散った。何度避けても、それに追いすがるように爆発が生じた。
 走り回りながら、ホークの頭は鋭く思考していた。行動を紛らわすためにわざと地面を転がると、爆発音の一つに合わせて発砲した。発砲に気づかなかったゼロの左腕に弾丸が貫通する。
 しかし、攻撃に気を取られたホークは回避が一瞬おろそかになった。左腕付近で爆発が起こり、ホークの左腕が手首と肘の間で千切れ飛んだ。悲鳴がこだまする。
「ホーク!」
 ウィンドが駆け付けて、左腕に応急処置を施す。そのままホークを壁に寄りかからせた。
「これ以上無理するな。ここで休んでろ。」
 ウィンドはそう言うと、再び前線に戻っていった。
 ホークの功績は大きかった。ゼロは肩のすぐ下を打ち抜かれたため、左腕を使うことができなくなったのだ。ウィンドが戦闘に再び加わったとき、ナイトとシールドはかなり善戦していた。
 しかし、ウィンドが攻撃に出ようとした瞬間、爆風に吹き飛ばされたナイトの体がウィンドの向かって飛んできた。ウィンドは慌ててナイトの体を受け止めた。
 一方では、形勢が逆転したゼロがシールドを苦しめていた。左腕がつかえない同士だが、実力の差でゼロが上手を取っていた。シールドが危ないと見たウィンドは、ナイトを放り出すと右手を前に出した。
 しかし、金属音と同時に、今度は弾き飛ばされたシールドの剣がウィンドに襲い掛かった。シールドが衝撃波でその剣を弾き返したとき、ゼロの剣が動いた。シールドはバリアを張ったが、ゼロの剣は既にバリアの中に入っていた。
 ゼロの剣はバリアとの接触点で切断されたが、切っ先はシールドの腹部に突き刺さっていた。
「シールド!」
 ナイトとウィンドは駆け寄ろうとしたが、ゼロが「待て」と言って右手を突き出したので、その場で止まった。
「今、私の周りには罠が仕掛けてある。動かない方が身のためだ。」
 そういうゼロの表情は真剣そのもので、そこには余裕はもはや見られなかった。その言葉を聞いた二人は、半信半疑に辺りを見回した。
「目には見えないが、後一歩でも動けばその空気の動きに反応して爆発が起こる。」
 まだ信じきれない様子で、ナイトがゆっくりと右手を前に出した。火花が散り、小さな爆発がナイトの小手の爪を吹き飛ばした。殺戮者との戦いで左手の爪を失っていたため、ナイトの武器はただの小手と化した。
 ウィンドが衝撃波で攻撃できなかったのは、ウィンドとゼロの間にシールドが居たからである。そのシールドが、自分に突き刺さった剣の切っ先を見下ろしながら、地面に両膝を付いた。そのままの姿勢でナイトとウィンドの方を振り返った。
「ごめんなさい・・ナイトさん・・ウィンドさん・・お役に立てなくて・・」
 シールドの周りから、薄れていったバリアが消えた。シールドに背を向けてゆっくりと十メートルほど離れたゼロが、振り返って右手を前方に突き出した。
「止めろぉ!」
 ナイトが叫ぶと同時に、両膝をついたままのシールドの周囲に無数の火花が散った。その爆発は、今までのどの爆発よりも皮肉な華麗さを持ち、どの爆発よりも大きくその音を響かせた。
 爆発の後には、悲傷と憎悪以外何も残らなかった。地面に片手と片膝を付いたナイトがゼロを睨み付けた。当のゼロは、途中から綺麗に切断された自分の剣を名残惜しそうに投げ捨てた。
「長く使ってきた愛用の剣だったのだがな。」
 溜息を吐いたゼロの顔面に、何かとてつもなく重く、凄まじい勢いを持ったなにかがぶつかった。のけぞって地面に倒れたゼロをそうさせたのは、ウィンドが放った衝撃波である。今までの衝撃波とは違い、威力を人の拳大に凝縮したものである。その破壊力はナイトが本気で繰り出す殴打を凌駕していた。
 ゼロは立ち上がると、口内に溜まった血を吐き出してウィンドの方を見た。そのウィンドがゆっくりと自分の方に向かってくるのを見て眉をしかめた。
「ウィンド・・お前、なにやってんだ?」
 横でそれを見ていたナイトが、ウィンドの意図を測りかねて聞いた。それに答えずに、ウィンドは前進していく。その全身から、激怒によって生み出された気迫が滲み出ている。
 理由のなくウィンドの意図を悟ったナイトが、ウィンドに掴みかかった。
「お前、気でも狂ったか?罠の中に自分から入っていく気かよ!」
 そう言い終わると同時に、ナイトはウィンドの衝撃波で後方に吹き飛ばされた。
 ナイトを無視して前に歩いていくウィンドの近くで爆発が起こった。ウィンドの右手の指が数本吹き飛ぶ。それを意に介さずに、ウィンドは歩きながら前方に右手を突き出した。今度は胸部に凝縮された衝撃波があたり、ゼロは後方に吹き飛ばされた。
 しかし、突き出したウィンドの右腕が爆発によって吹き飛ばされた。表情も変えずに前進を続けると、ウィンドは再び立ち上がったゼロに向けて、こんどは左手を突き出した。衝撃波が腹部にめり込み、ゼロは血を吐き出しながら倒れこんだ。
 同時にウィンドの左の脇腹を爆発がえぐった。ウィンドの口からも血が滲み出てきたが、前進は止まらなかった。
「ウィンド、もう止めろ!死ぬぞ!」
 ナイトの言葉を更に無視すると、ウィンドは再び左腕を突き出した。今度は避けようとして体をねじったゼロは、だが脇に衝撃を受けて吹き飛んだ。咳き込みながら立ち上がるゼロの背中を、更に衝撃波が叩いた。
 ゼロは地面に倒れたが、同時にウィンドの左腕が爆発によって肩からもぎ取られた。
「貴様・・」
 立ち上がり、口の血を拭うと、ゼロはウィンドを睨んだ。ウィンドは後一歩でゼロが張った罠の圏外に出るのである。
 だが、最後の一歩を踏み出したウィンドの足元で爆発が起こり、左足の腿をえぐった。ウィンドは地面に膝を付く。しかし、それでもウィンドは薄笑いを浮かべて近寄ってくるゼロを睨んだ。衝撃波がゼロの右肩を叩く。ゼロは反転して倒れたが、すぐに起き上がるとウィンドの首を掴んで持ち上げた。目が怒りで燃え上がっている。
 ナイトはもはや声を失って、呆然とその光景を眺めていたが、ゼロがウィンドを持ち上げたまま崖の縁に立ったのを見て正気に戻った。
「てめえ!その手を離したら殺すぞ!」
 叫ばれた本人であるゼロはそれを無視したが、ウィンドがナイトの方を見た。ウィンドはこの状況にあってナイトに微笑みかけた。
「貴様は『星の涙』の餌にしてくれるわ。」
 そう言うと、ゼロはウィンドを掴んでいた手を離した。ほぼ同時に、ウィンドが再びゼロを睨み付けた。アッパーカットを食らった形で、衝撃波がゼロの顎に下からあたった。ゼロは後方に吹き飛び、宙で一回転すると地面に倒れた。
 ウィンドの体はゆっくりと落下していき、「星の涙」は更にゆっくりとウィンドを呑み込んでいった。
「ウィンド・・」
 ただ一人の友人がどす黒い球体に呑み込まれると、ナイトの目から初めて涙がこぼれた。
「さすがは精鋭されたハンターの戦闘員だ。私をここまで苦戦させるとはな。」
 ふらつく足で立ち上がると、ゼロはウィンドが消えていった場所を見ながらそう言った。地面に両膝を付いていたナイトがゆっくりと立ち上がった。
「まともに戦えるのはお前だけだな。かなりダメージは大きいが、一人なら造作もない。」
 そう言いながらゼロがナイトの方を見ようとしたとき、強烈な鉄拳がゼロの左頬を殴りつけた。宙で反転したゼロは、両手を突いて転倒をまぬがれた。
「な・・どうやって・・?」
 猛獣のような目で睨み付けてくるナイトを、ゼロは当惑の表情で見た。
「ウィンドが命がけで開いた道だ。」
 ナイトはそれだけ言うと、ゼロの腹を蹴り上げた。
 そう、ウィンドが自ら罠の中に入っていったのは、自分が通った、これ以上爆発が起こらない通路をナイトの為に作ることが目的だったのである。
 ナイトに蹴り上げられて吹き飛んだゼロは、壁に叩きつけられた。しかし、すぐに体勢を立て直すと、再びナイトが繰り出した蹴りを押さえると同時にナイトの足を掴んだ。ナイトは咄嗟に左足だけで飛び上がると、宙で体をひねって自分の右足を押さえているゼロの頭を左足で蹴り飛ばした。
 地面に倒れたのは二人同時だが、起き上がるのはナイトが早かった。一瞬遅れて立ち上がったゼロの胸部に、ナイトの拳がめり込んだ。ゼロの肋骨の一本が、鈍い音と共に折れた。
 しかし、ナイトの攻撃とほぼ同時にゼロの右手から大量の火が発せられていた。ナイトの右腕が火に包まれた。慌てて上着を脱ぐと、ナイトはそれを自分の右腕に巻きつけた。火は消えたが、ナイトは火傷による激痛に顔をしかめた。
 だが、痛みはナイトの行動を遅らせなかった。立ち上がったゼロに突進すると眼前で軽く跳躍し、ナイトは宙で体をひねりながら右足を振り上げた。落下の勢いに足を振り下ろす力、更に遠心力が加わり、数倍に威力を跳ね上げたそのかかと落としがゼロの右肩に直撃した。普通のハンターでも気を失って三日は目覚めないであろうその一撃は、ゼロの立っていた地面にひびを入れ、ゼロ自信を地面に崩れさせた。
「どうだ・・?」
 地面に倒れたまま動かないゼロを見下ろしながら、ナイトが独り言のように呟いた。
 数瞬の空白の後、ナイトは後方に吹き飛ばされた。飛び起きたゼロがナイトを殴りつけたのである。
「素晴らしい!」
 そう言うと、ゼロはナイトが立ち上がる前に右手を前に突き出した。
 目前の火花を見ると、ナイトは慌てて後方に飛び退いたが、かなり大きい爆発だった為爆風に吹き飛ばされ、壁に背中から衝突した。一瞬息がつまり、目がちらついた。はっきりしない意識の中で、ナイトはやわらかい、憎み様のない少女の声を聞いた。
「まだ戦うのですか?」
 イノセントは倒れているナイトの前に立つと、そう言った。ナイトが頭を振って自分を正気に戻すと、立ち上がった。
「あなたは大きな力を持っています。星を守るのに協力してください。」
 ナイトはイノセントの言葉をほとんど聞いていなかったが、奥から聞こえた物音は聞こえた。その物音を聞いたゼロ、イノセント、ナイトがそろって顔を向けたのは、ナイト一行が通ってきた通路、つまり地上に繋がっている通路の方である。
 三人は間違いなくそれを見た。眩いばかりの光が通路から漏れてきている。光源が近付くにつれて、その神々しいまでの光は強さを増した。
(コードネーム、『キリスト』。能力名、『タール(奇跡)』。)
 その少年が姿を現すと、光はそれが幻覚であったかのように消え去った。ナイトはその少年に見覚えがあった。廃墟と化した町にたたずんでいた、あの少年である。
「どうやってここまで来たんだ?危ないから帰れ。」
 ナイトにそう言われた少年は、笑いかけるとナイトの右肩に手を置いた。そして、ゆっくりとその手を手首まで下ろしていく。痛みが引いていき、焼け爛れた右腕が元通りになっているのを見てナイトは言葉を失い、自分の右腕を驚愕の表情で見つめた。
 笑みを消して真剣な表情になると、少年はイノセントの方を見た。
「もう止めなよ、シリシア。」
 イノセント、いや、シリシアは形容のしがたい視線で少年を見ていたが、本名で話し掛けられて眉をひそめた。
「ヨウシェ、何しに来たの?止めるわけにはいかないよ、星を助けなきゃいけないんだもの。」
 ヨウシェと呼ばれた少年は、苦い表情を作った。
「違うんだ、シリシア。『その方法』じゃ星は救えないんだ。」
 ヨウシェの言葉に、ゼロとシリシアが表情を微妙に変えた。
「その方法がいけないんだ。・・・ガリアは・・・ガリアはダーラと戦うことで星を傷付けていくんだ。『星』は自分を守ろうとして、まったく反対のことをしているんだよ。」
 シリシアは首を振ったが、何もいわなかった。いや、正確には言えなかったのだ。ヨウシェが続ける。
「君だって分かっているんだろう?君の『夢』は毎回『変わっていない』んだろ?君がやっていることが星を救うなら、『夢』は変わるはずだ。」
 そのやり取りを見ていたナイトが、横から割り込んだ。
「どういうことだ?『星の涙』は自分を守れていないということか?」
 ヨウシェが頷く。
「『星の涙』は焦ってしまったんです。ダーラがガリアを滅ぼせば星は助かると思ったんです。だけど、ガリアには、いえ、全ての生物には危機を回避する本能があります。殺されそうになれば、どんな生き物でも対抗してくるのは当たり前です。」
 これは、当初ウィンドが言ったものと同じである。ヨウシェは再びシリシアに向き直った。
「駄目なんだよ、シリシア、『星の涙』を助けては。本当に星を守るなら、星の怒りを静めなくてはいけないんだ。」
 シリシアは既に泣きそうな表情になっている。
「じゃあ、どうすれば良いの?どうやって怒りを静めるの?」
 シリシアもゼロも、ヨウシェの言葉に反論できなかった。理由もなく信じてしまわせる響きが、ヨウシェの声にはあったからだ。
「それは・・僕以外にはできない。」
 ヨウシェはそう言うと、「星の涙」を見下ろした。ゼロがようやく声を出した。
「私は・・どうなる?私は罪も無き人々を殺していたというのか・・」
 ヨウシェはゼロに笑いかけた。
「あなたは、ただ星を救おうとしていたんです。」
 ヨウシェは壁に寄りかかっているホークの前に屈むと、千切れた腕を両手で包み込んだ。出血が止まり、傷が塞がっていく。
「もうじき目覚めますよ。すみませんでした、ナイトさん。僕がもっと早く来ていれば・・」
 ナイトはうつむいただけで何も言わなかった。
「シリシア、君は町に戻って人々に教えなくちゃいけないことがある。」
 ヨウシェに言われると、シリシアは頷いた。
「ヨウシェはどうするの?」
「僕は・・星の怒りを静めるよ。」
 そう言うと、ヨウシェは再び崖の縁まで行って振り返った。ゼロとナイトを交互に見る。
「『星の涙』は僕がなんとかしますが、ダーラは残ってしまうんです。ですから、ダーラ達はあなた方に任せます。」
 ナイトとゼロが頷く。
 ヨウシェは最後に微笑むと、後ろに身を投げた。ヨウシェの姿が「星の涙」に飲み込まれて間もなく、黒い球体の各所にひびが入っていき、そこから青白い光が漏れてきた。
 やがて黒い表面が砕け散ると、淡く、眩いその光が辺りを包んだ。不思議な温かさをもった光は三人を包み込み、地上にまで広がるとゼールをも吸収し、やがてグラーム全体を包み込んだ。
 数分後、光は忽然と消え、星の中心にかつて「星の涙」だった青白い球体が残った。地下にいた三人は言葉を失って、しばらくその球体を見つめていた。しばらくすると、ゼロがゆっくりと沈黙を破った。
「ここより更に下に、本当のダーラの巣がある。地上に出ているダーラの三倍の数はいる。」
 ナイトがゼロの方を見た。
「お前達は今すぐ地上に行け。」
「お前はどうするんだ?」
 ナイトが聞くと、ゼロは青白く光る球体を見た。
「私はここに残って、下に居るダーラを食い止める。」
 ナイトは一瞬沈黙したが、止めはしなかった。自分がゼロの立場でも、同じことをするような気がしたからである。
「ゼロさん・・」
 ゼロはシリシアの頭に手を置くと、先を急ぐように促した。ナイトがホークの頬を軽く叩いている。
「ホーク、起きろ!」
 ホークが最初に薄っすらと目を開き、一瞬後カッと見開いた。
「ナイト、どうなった?あ・・あれ?右腕が・・ドクターでも来たのか?」
 放って置けば百ほど質問してきそうなホークを遮ると、ナイトは必要なことだけ言った。
「話は後だ。先を急ぐぞ。立てるか?」
 ホークが頷いて立ち上がると、立ち上がってから自分で驚いた表情を作った。ナイトがシリシアの手を取ると、三人は走り出した。
 三人の背中を見とどけると、ゼロは壁に寄りかかって座り込んだ。
「せめてもの罪償いだ・・」

 数分後、三人は地上に出た。途端に三人そろって目を瞑った。ゆっくりと目を開け、上を見上げると果てしなき青空と、煌々と照る太陽が三人を迎えていた。
 一瞬それに見とれたが、三人はまたすぐに走り始めた。
 洞窟からかなり離れた辺りで、シリシアが走るのを止めて振り返った。ナイトとホークがそれに気づいて振り返った瞬間、地響きと共に前方の地面が陥没していった。地下深くで起こった凄まじく巨大な爆発は、地上にやはり巨大なクレーターを作り出したのである。
 ナイトは怒りとも悲しみともつかない表情で陥没した地面を見つめた。


    末章

 四年後、ダーラは存在しなくなり、ハンターという組織もまた消え去った。町は発展していったが、昔の名残からミカは取り壊されなかった。
 草原の中心にそびえるミカに向かってシリシアは歩いていった。
「ナイトさん。」
 ミカの上に寝そべって空を見上げていたナイトは、呼ばれて下を見た。
「シリシアか。見違えたな。」
 二人は三年ほど会っていなかったので、ナイトは驚いたように言った。
「昨日、ホークさんに会ってきました。ナイトさんから音沙汰がないと怒っていましたよ。」
 そう言いながら、シリシアはクスクスと笑った。ナイトが頭を掻く。
「シリシアは、どうして俺がここにいると分かったんだ?」
 そう聞かれて、笑顔のままシリシアが答える。
「私には、『シャルク(夢見)』がありますから。」
 ナイトは笑って「そうだったな」と呟いた。
「ナイトさんは、ここで何をしているんですか?」
 シリシアがそう聞くと、ナイトは視線を外して上体を起こすと、再び空を見上げた。
「いい風だ・・・」




終わり

 




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